辻真先『犯人――存在の耐えられない滑稽さ』

 購入日不明。おそらく3年は放置していると思う。辻真先を読むのはこれが初作品。新進作家佐々環による先輩作家若狭いさお批判が発端で二人の作家の関係は剣呑なものに。担当編集者たちの耳に届いた二人の決闘の噂。心配した編集者が孤島にある若狭の別荘へ向かう。そこで発見したのは若狭の死体、しかもその別荘は密室で決闘相手の佐々の姿はなかった……


 作中に佐々・若狭それぞれの短編が収録されており、それが事件解決の鍵になっている。その観点はいかにも編集者的(実際指摘するのは編集者たちでなくマンガ家なのだが)でユニークだが、どうにも説得力にかけるような気がする。ただ、そこを容認できれば謎解き自体は十分に楽しめる。しかしそれにしても、若狭の作品はいかにもおっさんの書いた若者向け作品という感じでヒドイな。私が佐々でも批判するぞ。


 事件解決後さらにひとつ趣向が凝らされているが、これがうまく決まってない印象。趣向自体は面白いのだけど。そもそもその趣向をばっちり決めること事態が難しいのだから仕方のないことだが、これはなくてもよかったのかも……と思っていたら、折原一の解説によると、この手の演出は辻真先が他作品でもよく使うものらしい。この作家の色ということか。