舞城王太郎『ビッチマグネット』

ビッチマグネット

ビッチマグネット

 2009年11月購入。1年3ヶ月の放置。「家族愛」という作者が好んで用いるテーマを中心に書かれた物語。愛人のもとに走ってしまった父、その父に捨てられた事で心に傷を負った母と弟を持つ少女・香緒里が本書の語り手である。作中で香緒里はビッチに引っかかってしまった弟を心配したり、彼氏ができたり、そして父の愛人と交流を持ったりする。こういった人々との交流によって香緒里は成長していく。これらの点は直球の成長小説でえあるといえる。テーマの扱い方もオーソドックスで、作者らしさが伺えるとはいえ舞城小説としてはお行儀が良すぎる。「奈津川家シリーズ」や『ディスコ探偵水曜日』等で顕著であったメタ趣向も抑制されており、その点でも作者の色は薄い。とはいえ、語り手はの語り口は自己言及的であり、メタ趣向という点はその語り口から感じ取れる。総じて薄味の舞城作品ではあるが、自己主張は決して弱いわけではないといえる。