鳥飼否宇『逆説的 十三人の申し分なき重罪人』

 2008年8月購入。2年5ヶ月の放置。綾鹿市で次々と起きる事件を解決すべく奔走する五龍神田刑事と、彼をサポートするホームレスの「じっとく」の活躍を描いた連作本格ミステリ短編。事件の真相を見ぬいた「じっとく」が五龍神田にアドバイスするものの、粗忽な五龍神田がアドバイスを早とちりした挙句迷推理を披露するはめになり、結局解決は他の刑事に奪われる、というのが基本パターンであり、ユーモアミステリの体を有しているといえる。また、五龍神田の失敗、というオチは共通しているものの、各短編で扱う事件が殺人・誘拐・ストーカーといった具合に全て異なり、そのバリエーションの多彩さ故にお約束的展開が続くことにより生じるマンネリ感は大きく減じられることになっている。さらに、後半に至ると、待ち受けるオチそれ自体がお約束的展開から外れていき、読者はラストの大オチに向けて目を離せなくなっていくことであろう。なお、タイトルから察せられるように、チェスタトン的逆説をミステリ的テーマに添えているのではあるが、例えば同じリスペクト精神に則った泡坂妻夫の「亜愛一郎シリーズ」ほどロジックのキレは見られない。作品単体ではまずまず楽しめるのではあるが、タイトルから受ける期待感に乗っかり過ぎるとやや肩透かし感が生じるかもしれない。