ジャック・ヨーヴィル『ドラッケンフェルズ』

ウォーハンマーノベル ドラッケンフェルズ (HJ文庫G)

ウォーハンマーノベル ドラッケンフェルズ (HJ文庫G)

 2007年9月購入。3年4ヶ月の放置。本書のプロローグはいきなりラスボス戦直前の場面から始まり、その戦いが終焉を迎えたと思われるところで終わる。しかし、多くの犠牲を経てようやく討伐したと思われたその戦いの肝心の場面は描かれない。視点人物である齢648歳の女吸血鬼・ジュヌヴィエーヴが気を失ってしまい、描写が省略されてしまうためだ。
 本編はそれから25年後・吸血鬼ドラッケンフェルズ殺しの英雄となったオスヴァルトの発案により、一連の討伐行を演劇化されることとなるところから始まる。脚本執筆の大役を任されたデトレフ・ジールックは当時の関係者から話を聞くことにより舞台イメージを固めていくのだが、その関係者が次々と死を遂げていく。また、デトレフの周囲にも奇怪な現象が相次ぐ。やがて脚本は完成し、実際に戦闘が行われた因縁の地・ドラッケンフェルズ城いよいよ上演されることになるのだが……
 実際の戦闘が行われた場面を棚上げし、かつ肝心のシーンを覆い隠すことにより読者に対して「実際過去に何があったのか?」という疑問を抱かせた上でストーリーは進行する。したがって単純なバトルメインの冒険活劇ではなく、隠された真実に起因した怪現象が巻き起こす恐怖、こそが読みどころとなっている。英雄譚ではなくまさしくホラーの文脈に則った作りで、両者の作劇の違いがそのままプロローグと本編の配置法に現れているといってよい。そしてホラーの方法論をとっておきながらも、ラストはきっちり英雄譚的な場面を用意しており、プロローグの消化不良をきちんと解消しており、その構成は好印象である。