上遠野浩平『禁涙境事件』

禁涙境事件  ”some tragedies of no-tear land”

禁涙境事件 ”some tragedies of no-tear land”

 2005年1月購入。半年の放置。「事件」シリーズ第4弾。あらゆる魔法の効果を4分の1に減じる地、禁涙境で起きたエルウィンド・リーチの殺害。その状況は、「衆人環視の中、固く、なんの穴もない大地からいきなり飛び出してきた矢に、心臓を一撃された」ものであった。リーチ殺人事件の真相、そして「禁涙境」の秘密とは……?


 上遠野の文章はテンポがよい。ノベルスにして280ページの作品だが、内容的には盛り沢山でそれなりに楽しませてくれる。そして、ネーミングセンスの秀逸さ。タイトルの禁涙境を筆頭に戦地調停士、界面干渉学、残酷号等々。物語の世界観をイメージさせるのにこれらのネーミングセンスが作品のクォリティを高めてくれている。それなのに、シリーズ名が「事件」シリーズって……何とかならなかったのか。


 シリーズ全体を通してのことだが、講談社ノベルスが従来の新本格路線から現在のラノベっぽさを重視した路線に変更する過渡期に出てきたシリーズだからだろうか、変に本格ミステリっぽさを出そうとしているのが気になる。純粋にファンタジーとして構成させたほうが完成度は高くなると思うのだが。