海堂尊『螺鈿迷宮』

螺鈿迷宮

螺鈿迷宮

 東城大学の落ちこぼれ医学生・天馬大吉は幼なじみ記者・別宮葉子に桜宮病院への潜入調査を頼まれる。葉子の話によると、桜宮病院を調査していた男が院長とアポが取れたという連絡を最後に行方不明になったというのだ。よんどころない事情で依頼を断れない天馬はこれを承諾し、介護ボランティアとして桜宮病院に通うことに。そこで待ち受けていたのは院内の黒い噂、そしてドジな看護婦に胡散臭い医者であった。
 テーマとなっているのは終末医療に関わる問題で、医者でもある作者の示すその具体性にはリアリティが感じられる。門外漢の読者に対しては語り手のに落ちこぼれの医学生というキャラを設定することによって問題点をよりわかりやすくしようとしている。それのみならず、語り手の落ちこぼれ学生であるがゆえの甘さと現実の終末医療に従事する者たちの重い現実に対する受け止め方という対比が、問題の重大さ・深刻さを明確に浮かび上がらせている。これは視点設定の勝利といえよう。
 キャラクターに関しては、「チーム・バチスタ」シリーズでおなじみの白鳥と姫宮が登場しておるがゆえにシリーズ読者はそれだけで楽しめるし、そうでない読者にとっても個性の強い人物が物語を牽引しているので作品世界にグイグイと引き込まれいくことになるであろう。特に姫宮はドジっ子看護婦というキャラで読者の目を引くが、終盤そのドジ自体が作品に欠かせない意味を持ち合わせてこととなっている。単に奇を衒ったキャラ設定で終わっていないのである。