アルフレッド・ベスター『分解された男』

分解された男 (創元SF文庫)

分解された男 (創元SF文庫)

 大企業王国(モナーク)物産の社長ベン・ライクは、ライバルであるド・コートニー・カルテルの社長を殺害することを決意した。しかし人の心を透視することのできる超感覚者の出現によって、犯罪の計画すら不可能とされた時代のことである。当然、実行には困難が伴うのだが、ライクはどうにか犯行に成功した。完全犯罪と思われた一連の犯行であったが、刑事部長のパウエルはライクの仕業であることを見抜き、どうにかして彼を逮捕せんと付け狙うのだった。
 作者がミステリ者であったのならば、ライクの犯行計画に力を入れたハウダニットとして作品を手がけていたかもしれない。しかしSF畑のベスターはその部分をあっさりと流し、以降のライクVSパウエルの駆け引きに筆を多く費やしている。その駆け引きも心理戦というには荒っぽい展開であり、繊細な展開を望む読み手にとっては辛い作品であるかもしれない。実際のところ読みどころとなっているのは追うパウエルの執念や追われるライクの焦燥、そして徐々に追い詰められていくライクの精神の行く末といった部分である。もちろん彼らの心情のあり方の根底にあるのはESPの持ち主が存在する世界という設定部分で、これを踏まえた上で繰り広げられる二人の物語を素直に楽しみたい。