坂木司『先生と僕』
- 作者: 坂木司
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2007/12
- メディア: 単行本
- クリック: 16回
- この商品を含むブログ (57件) を見る
先生=家庭教師の二葉と僕=教え子の隼人という構図が提示されているものの、ミステリレベルに置いては教え子であるはずの隼人が名探偵役を務めており、倒錯した関係が見られる。このパターンはありがちではあるが人物同士のやりとりでストーリーを盛り上げることができ、手法としては王道的であるといえる。しかし本書でまずいのは、ミステリレベルを離れたところでもこの構図が倒錯したままにあるという点だ。教師役、すなわち人生の導き手であるはずの二葉が隼人に比べて明らかに世間知らずである。本書には謎解きを経て何らかの人生の教訓を得る、という形式の話が含まれているが、教訓を得るのは二葉の方になっている。これにより、物語上常に二葉<隼人という関係が成立してしまい、せっかく人生経験が未熟な中学生を探偵役にすえて、その上そんな少年に年上の大学生を教師役として据えた意味が希薄になってしまった。それどころか、少年の方が年上の青年を人生について教え諭すという格好になっている。これもまた、倒錯と安易に片づけてしまうのも可能だ。だがそこで少年の成長を表現することができなくなってしまった。こういう構図にしてまで少年を名探偵にする意味がはたしてどこまであるのだろうか。