レイ・ブラッドベリ『華氏451度』

華氏451度 (ハヤカワ文庫SF)

華氏451度 (ハヤカワ文庫SF)

 2008年11月購入。1年10ヶ月の放置。本の所有が禁じられた世界で焚書官を勤めるモンターグ。ある時彼は仕事で本と一緒に所有者の女性を焼いてしまう。その行為にショックを受け、焚書官という自分の職業や本の無い世界に疑問をもつようになる。そしてついには本を読むようになり……という我々本読みにとって非常に挑戦的な内容のストーリーだ。
 本を読むことによって知識を得る機会を奪い、考えることを放棄させ、テレビやラジオによって与えられる娯楽のみに興味を示すようになる、という世界のあり方は愚民政策そのもので現代実社会を連想することは容易である。もはや古典と呼んでも差し支えない本であるが、そのテーマは非常に今日的である。
 ところで、本の消滅は現在別の形で訪れてきている。電子書籍の登場である。本の内容そのものが失われるわけではなく、逆に保存しやすい面もあるので本書のテーマとは本質的には異なる。だが、この事態に関して、ブラッドベリはこう言ってのけた。「去年、デジタル書籍化のオファーを3度受けたんだが、ヤフー(Yahoo)にはこう言ってやったよ。『いいかよく聞け、地獄に落ちろ』とね」。いやはやなんとも元気な頑固爺さんである。