2007年11月購入。2年10ヶ月の放置。16世紀、
オスマン・トルコの壮麗王ス
レイマン大帝の時代に多くの建造物を手がけ、ついに史上最大のモスクを作り上げた建築家・
シナンの物語。彼が歴史上に登場するのは老年にさしかかってからであり、件のモスク、セリミエ・ジャーミーを完成させたのは実に87歳のことである。彼の雌伏の時代を語るにあたって、作者は一人の架空人物を設定した。ハサンという彼の友人である。このハサンを大帝ス
レイマンや宰相イブラヒムと関わらせることによって、
シナンの壮年期はかろうじて歴史とつながりを持つ。そして歴史の末席に
シナンを座らせた状態で、作者はス
レイマン壮麗王の足跡を記していく。読者の目には本書が
シナン個人の物語ではなく、ス
レイマンのそれに映ることであろう。が、こうしてス
レイマンの偉大さを描くことこそ
シナンの業績を際だたせることになるのだ。冒頭、
シナンは、自分たち
イスラム教徒では決して造り得ない
キリスト教徒の残した聖堂の大きさに感動する。建造物によってキリスト文明の優位を表現したのだ。しかし、歴史の流れはス
レイマン率いる
イスラム文明に向いていく。
シナンの創り上げた
キリスト教の聖堂を凌ぐ巨大モスクは、当時の
イスラム文明が
キリスト教文名をしのいだことを端的に表している。本書は当時の
オスマン帝国を描いた
歴史小説であるとともに、
シナン個人の物語でもある。