神林長平『狐と踊れ』

狐と踊れ (ハヤカワ文庫 JA 142)

狐と踊れ (ハヤカワ文庫 JA 142)

 デビュー作に当たる表題作を含む短編六篇を収録。その表題作は5Uという薬を定期的に服用しなければ、胃が体内から逃げ出してしまう、という未来社会を舞台としている。そもそもの設定の独自性が際立っているのはもちろん、そこから導きだされる社会のありかたを緻密に描いており、完成度は高い。他にはホラーテイストの強い奇想系「ビートルズが好き」、母親になるのに資格が必要とされる未来社会を舞台とした「返して!」、漂流先の惑星で出会った奇妙な現地生物とやりとりを描いた「ダイアショック」、忙しさをエントロピー理論を用いて料理した「忙殺」など。作者の出世作にして代表作である「敵は海賊」の第一作目も収録されている。