柄刀一『fの魔弾』

fの魔弾 (カッパノベルス)

fの魔弾 (カッパノベルス)

 2004年11月購入。5年9ヶ月の放置。南美希風の学生時代の友人が殺人容疑で捕まり裁判にかけられた。容疑者である浜坂憲也は事件当時二体の銃殺死体とともにマンションの一室で眠っており、しかもその部屋は密室状態にあった。彼の無罪を証明すべく、南美希風は事件を調査することに。ところが、事件を追ううちに美希風自身が窮地に陥るのだった。
 ストーリーは浜坂事件の一連の流れと美希風に危機が迫る現在という二つの時間軸が並行して語られる。前者は無罪が証明されない限り死刑が宣告されてしまう、というタイムリミットが刻一刻と迫る状況にあり、後者では今まさに美希風の生命が脅かされんとしている。依頼人と探偵役二人の危機を描くことで読み手の緊張感は否が応にも高まる、という構成は素晴らしい。だが、それ以上に見事なのは現在美希風が陥っている状況が浜坂のそれと酷似している、という点から推理を展開していく部分だ。結果、浜坂事件のトリックを暴くことが美希風自身の危機脱出につながる、すなわち両事件の解決が同時に訪れるということになり、読者の得られるカタルシスが二乗されているのだ。『ユダの窓』の変奏であるメイントリックもなかなかのもの。、