大崎梢『晩夏に捧ぐ 成風堂書店事件メモ(出張編)』

 2006年9月購入。3年10ヶ月の放置。老舗書店「まるう堂」に幽霊が現れるようになった――かつての同僚・美保にこの幽霊騒ぎを解決して欲しいと持ちかけられた杏子は、名探偵の資質を持つ多絵とともに美保のもとへと赴いた。彼女曰く、幽霊の正体には心あたりがあるらしく、どうやら27年前にこの地で殺された作家であろうとのこと。当時の殺人事件の背景を聞いた杏子たちは、事件関係者から話を聞いてまわることにしたのだった……
 主要人物である杏子たちの職業が書店員であること、及び舞台が書店周辺にあることで、作中には書店関係のエピソードや薀蓄が満載である。これらいわゆる職業小説的な要素はともすれば内輪臭が強くなりがちであるが、本書に関してはうまく作品世界に落とし込んでいるといえる。逆にその作品世界から浮いてしまっているのがミステリ的要素だ。一書店員に過ぎない探偵役の事件に関する聞込みがスムーズに進みすぎる。書店がらみのネタがリアル寄りであるのに対し、事件パートは探偵が特権化(探偵パートをミステリのお約束と割り切ることは可能ではあるが)されてしまい、結果、作品そのものが微妙にアンバランスになっている。