司馬遼太郎『十一番目の志士』上下

 2009年2月購入。1年5ヶ月の放置。幕末の長州藩における高杉晋作桂小五郎は表舞台を彩った人物である。彼らを通して歴史の流れを語るのは幕末小説ではオーソドックスな手法であろう。では光の当たらない裏舞台ではどうであったか。作者は天堂晋助という架空の人斬りを作り上げ、彼を通して禁門の変以降、苦難にあった長州藩を描いてみせた。
 架空人物を主人公に据えるのは、この作者には珍しいことである。だが、その架空人物を歴史上の人物が躍動するこの小説世界にうまく落としこみ、彼らと変わらずに作中で活写させている。この天堂は女運が結構あるらしく、作中で危地に陥ると必ずや誰かしら女が助けに入る。そのご都合主義はさておくとして、天堂と女との触れ合いが陰惨な世界を明るく彩ってくれる。そのうちの一人、彼を仇とつきまとう粟屋菊絵は司馬遼太郎ツンデレということで注目したい。