野村美月『”文学少女”と慟哭の巡礼者』

“文学少女”と慟哭の巡礼者 (ファミ通文庫)

“文学少女”と慟哭の巡礼者 (ファミ通文庫)

 シリーズ第五作。今巻では心葉と美羽の再会という大きな山場を迎える。美羽の言動に振り回される心葉と周囲の面々の心情が読みどころだといえる。しかし、肝心の心葉がウジウジしすぎており、読み手の胸中はスッキリすることはないであろう。加えて、彼の友人たちを振り回す美羽の謀り事の手際も、成果に反して客観的に見て稚拙に過ぎる。このような登場人物の言動が、俯瞰して眺めると不自然に感じざるをえない。本書を十二分に堪能するには、登場人物、ことに主人公である心葉に対していかに感情移入できるかにかかっている。とはいえシリーズものの五作目まで付き合っている読者であれば、それも可能であるはずで、したがって、シリーズ読者には楽しめる作品であると思われる。