山之内正文『八月の熱い雨 便利屋<ダブルフォロー>奮闘記』

 2006年8月購入。3年10ヶ月の放置。便利屋<ダブルフォロー>を営む皆瀬泉水のもとに持ち込まれた依頼に関する五つの短編が収録されている。
 好きだったバイクを急に手放してしまい、以降元気の亡くなった老人。バイク乗りを辞めた理由を探す「吉次のR69」。自分がデートしているところをビデオに収めて欲しいという依頼。だが、その依頼には隠された意図があるようで……「ハロー@グッバイ」。老婦人に本の読み聞かせをするという依頼を受けたのだが、依頼先の家には迷惑電話が頻繁に掛かってきたり、家の周りをうろつく怪しげな男の姿が見えたり、という表題作「八月の熱い雨」。料理も掃除もしないほど怠惰に見える女性から、買い物の依頼を受ける。どうやらこの一家には事情があるようで……「片づけられない女」。将棋好きの恩師には郵便将棋の相手がいるらしいのだが、ある時相手からの返信が滞るようになる。いぶかしく思っていると、返信の代わりに突然高額な将棋盤が送られてきた。水瀬は恩師と共にその相手のもとに向かう「約束されたハガキの秘密」。
 各短編、いわゆる「日常の謎」系のお題が提示され、それぞれが読者の興味引きやすいものとなっている。かつ、それを契機として展開される内容も、例えば家族や夫婦の問題を提起させたり、あるいは自殺サイトを絡ませたりと一旦惹きつけた読者の興味を離さないよういろいろと趣向を凝らしている。まずは安心して読める水準にある。主人公とそれを取り巻くレギュラーキャラクターの個性もそれなりに確立されているのだが、その個性が主人公との絡みという面では活かしきれていないのが惜しいところだ。