樋口有介『夢の終わりとそのつづき』

夢の終わりとそのつづき (創元推理文庫)

夢の終わりとそのつづき (創元推理文庫)

 2007年7月購入。2年11ヶ月の放置。柚木草平が刑事を辞めてまだ八ヶ月しかたっていない頃の事件。美女からの依頼を受け、その美女とはいい関係になり、もちろんそれ以外の女性にも好意を抱かれる、というモテっぷりはシリーズのお約束だ。本作品がシリーズ他作品と大きく異なるのは、柚木が引き受けた事件の性質である。ある男を尾行するのだが、その男は餓死をしてしまう。しかし、尾行の最中その男はふんだんに飲み食いをしていた。
 まるで島田荘司を思わせる謎の提示は本シリーズとしては極めて異色で、後半に見られるSF的展開やオチは樋口テンプレを期待したシリーズ読者は戸惑いを覚えることであろう。この原因はあとがきや解説にあるように、『ろくでなし』という作者の柚木シリーズではない他作品をリライトし、その際に主人公を柚木草平に変更したことによる。シリーズの統一感から外れるのは当然で、それを許容できるかどうかで好みははっきりと分かれるであろう一冊。個人的には、出来そのものはシリーズ外の他作品を含めた上でもさほどよいとは思えない。