栗本薫『グイン・サーガ130 見知らぬ明日』
見知らぬ明日―グイン・サーガ〈130〉 (ハヤカワ文庫JA)
- 作者: 栗本薫,丹野忍
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/12/10
- メディア: 文庫
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それにしてもこの『グイン・サーガ』という作品には、ある種の「魅力的な物語のあり方」を再認識させられた。テーマやシーン、あるいは人物エピソードといった書くべき焦点を絞って短くまとめた短編や、提示された謎の解明という形でそもそもストーリーのベクトルが収束方向を向いている本格ミステリ、史実に準拠したストーリー展開を見せるが故に結末もそれなりに決まっている歴史小説といった例外があるにせよ、魅力的な物語とはその世界観が広がり続ける傾向にある。特に伝奇やファンタジー、SFといったジャンルはその傾向が強く、例えば、伝奇小説の大家である国枝史郎の代表作『神州纐纈城』『蔦葛木曽桟』は未完であるし、中里介山『大菩薩峠』などは幕末という舞台設定のしがらみを振り切って独自の物語世界を膨張させていく。現代作家でも夢枕獏の長編作品は風呂敷がどんどん広がっていくし、や菊地秀行の描く魔界都市新宿は未だ底を見せない。
他にも例はいくらでも上がるはずだ。これら作品の共通点は作品世界が作者の意図を超えて膨張しているところだ。作品それ自体の持つパワーが強すぎる。それゆえに作品そのものはえてして未完のままになってしまう。だが、未完であるそれこそが最大の魅力であるともいえる。『グイン・サーガ』もまたこういった未完の魅力を持ちうる作品となった。