栗本薫『グイン・サーガ130 見知らぬ明日』

 2009年12月購入。1ヶ月の放置。世界最長を誇る大河ファンタジー・ロマンも、作者逝去にともない、ついに今巻をもって完結を見ることなく終了する。黒死病流行の危機を乗り越えたケイロニア王グインや内乱によって疲弊しきった国を健気に支えるパロの女王リンダや自らの抱えた野心のままに暴走するゴーラ王イシュトヴァーン……その他数多いる登場人物たちの今後の行く末が語られることはなくなった。一読者として残念で仕方がない。
 それにしてもこの『グイン・サーガ』という作品には、ある種の「魅力的な物語のあり方」を再認識させられた。テーマやシーン、あるいは人物エピソードといった書くべき焦点を絞って短くまとめた短編や、提示された謎の解明という形でそもそもストーリーのベクトルが収束方向を向いている本格ミステリ、史実に準拠したストーリー展開を見せるが故に結末もそれなりに決まっている歴史小説といった例外があるにせよ、魅力的な物語とはその世界観が広がり続ける傾向にある。特に伝奇やファンタジー、SFといったジャンルはその傾向が強く、例えば、伝奇小説の大家である国枝史郎の代表作『神州纐纈城』『蔦葛木曽桟』は未完であるし、中里介山大菩薩峠』などは幕末という舞台設定のしがらみを振り切って独自の物語世界を膨張させていく。現代作家でも夢枕獏の長編作品は風呂敷がどんどん広がっていくし、や菊地秀行の描く魔界都市新宿は未だ底を見せない。
 他にも例はいくらでも上がるはずだ。これら作品の共通点は作品世界が作者の意図を超えて膨張しているところだ。作品それ自体の持つパワーが強すぎる。それゆえに作品そのものはえてして未完のままになってしまう。だが、未完であるそれこそが最大の魅力であるともいえる。『グイン・サーガ』もまたこういった未完の魅力を持ちうる作品となった。