道尾秀介『花と流れ星』

花と流れ星

花と流れ星

 2009年8月購入。5ヶ月の放置。作者唯一のシリーズキャラクターである真備、凛、道尾らが登場するシリーズの短編集。これらの登場人物たちは過度の自己主張はしないものの、それぞれの立ち位置をきちんと踏まえた上で役割を果たしている。また、本シリーズの基本スタンスである霊などの怪奇現象というホラー的側面とそれを論理的に解体する本格ミステリ的側面の調和ぶりも健在だ。以下、各作品の雑感。

  • 「流れ星のつくり方」

 北見凛が旅行先で出会った少年が語る家族惨殺事件とその犯人の消失の真相を真備が解き明かす。ミステリ的な仕掛けは作者が頻繁に用いる類のものであるので、手癖を周知している読者には見破りやすい。が、その仕掛けそのものよりもそれを用いた演出は巧み。

  • 「モルグ街の奇術」

 行きつけのバーで出会った手首のない奇術師。その奇術師が自分の手首を消失させたトリックを見破れるかと挑戦してくる。真備と道尾は自らの手首を賭けてその挑戦を受ける。探偵VS犯人という構図を強調した演出でもって進む本作は収録短編中ではやや異色。また、作者の好んで用いるモチーフである「子ども」が登場しない唯一の収録作という点でも他作品とは毛色は異なる。

  • 「オディ&デコ」

 赤ん坊の猫の幽霊が映った動画を持って相談に来た少女。彼女はその猫を見殺しにしてしまったと気を病む。本作はこの少女を助けるため、真備でなく道尾が活躍する。

  • 「箱の中の隼」

 多忙な真備に代わり、新興宗教施設を視察することになった道尾は組織の風変わりな実態を見ることに。さらにはそこで殺人現場を目撃する。扱い方によっては長編にも用いられそうな舞台でありながら、あえて真正面からのテーマ設定を避け、シンプルなワントリックものの短編に仕上げた一編。

  • 「花と水」

 自らの過失により孫を失ってしまった老人がとったある行動に焦点を当てた話。収録作中、扱うテーマは本作が最も重いであろう。