二階堂黎人『ドアの向こう側』

ドアの向こう側

ドアの向こう側

 2004年5月購入。5年4ヶ月の放置。幼稚園児の渋柿信介を探偵役としたシリーズの第二弾。近所で嫌われている男が殺された。その直前、恋人の女性と大喧嘩している姿を見ていた信介が思い立った真相とは……「B型の女」。旅行先の雪山で知り合った少年が車に襲われかけた事件「長く冷たい冬」。乳の友人が購入しようとしているペンションで昔起きた少女失踪の謎「かたい頬」。友人の飼っていたウサギがいなくなった。調査に乗り出した信介は怪しい老人の存在に行き当たる……「ドアの向こう側」。以上短編4作を収録。いずれの短編も冒頭の謎とその解決というきっちりとした構成になっており、その手の話を好む読者はそれなりに楽しむことのできる作品だ。しかし、本シリーズの最大の読みどころは「ハードボイルド気取りの幼稚園児の視点で語られる物語」であることだ。気取ったハードボイルド調の文体と、それを用いる幼い男児というギャップによって生まれるおかしな味をこそ、味わうべきであろう。幸か不幸か、作者特有の大仰でくどい文体がこのギャップを強調しなんともいえない味をかもし出している。男女の痴話喧嘩で用いられる罵倒語が「ノータリン」であったり、金持ちのオバサマがベッタベタな「ザマス」言葉を話したりと、独得のセンスによるおなじみのゲドババァクオリティもまた、奇妙なおかしみを強調してくれている。重々しい長編は合わない、という読者もこちらなら楽しく読めるかもしれない。