藤岡真『七つ星の首斬人』

七つ星の首斬人 (創元クライム・クラブ)

七つ星の首斬人 (創元クライム・クラブ)

 2009年7月購入。1ヶ月の放置。宇宙物理学の世界的権威にして名探偵としても世間に名をとどろかす海渡欄太郎のもとにもたらされた連続首斬り殺人事件。犯人はどうやら真言密教の五色と五大要素に基づいて犯行を繰り返しているらしく、犯行現場には「七つ星の首斬人」の名義で犯行声明を残している。同時に、海渡のところに奇妙な依頼が持ち込まれる。「七角形の構造にはおそろしいパワーが宿っている」というトンデモ仮説を証明するために、七星堂という七角形の建造物に入って、何が起きるか確かめて欲しいという。海渡は依頼を承諾する。しかし実験の前日、常識的に考えて何も起こるはずがないであろうその建物で、首斬り死体が見つかる。建物は密室であった……
 本書にはこの作者らしい要素がふんだんに盛り込まれている。作者のサイトにしばしば足を運ぶ者にとっては、七角形のエネルギー云々のような胡散臭い理論を取り上げたトンデモ本を紹介することはご存知だろうし、居合いの達人が登場するあたりは作者本人が武道をたしなむことを連想させる。語り手が怪しげな人物を追うシーンの情景描写はどことなく「笑歩」の成果がうかがえないでもない。このことから、こういった作者の持ちうる武器を作中にぶち込んだ作品ということも可能だ。語り手である作家の著作『五色金神殺人事件』が登場するが、珍品として話題に上がることの多い作者の問題作『六色金色殺人事件』をネタとして取り入れたわけで、これまた作者の持ちうる武器を利用したいえよう。
 肝心の本書の内容であるが、ふんだんにちりばめられた伏線が徐々に回収されていく、その過程を楽しむべきであろう。もっとも、連続首斬り殺人事件やその背景にある『虚無への供物』オマージュ、密室トリックといった派手派手しい要素が多いにもかかわらず、そして伏線回収が美しさを備えているにもかかわらず、全体的に盛り上がりに欠けたままラストを迎えてしまっている感がある。『ゲッペルスの贈り物』のようなけれんみや、『六色金神殺人事件』のハッタリ、『白菊』のずうずうしさといった突き抜け感が不足しており、これらに比して小粒な作品という印象になってしまっている。とはいえ、超久々の作者の新作ということで、楽しく読めました。次回作にも期待したい。