北森鴻『なぜ絵版師に頼まなかったのか 明治異国助人奔る!』

なぜ絵版師に頼まなかったのか

なぜ絵版師に頼まなかったのか

 2008年5月購入。1年3ヶ月の放置。明治維新直後の日本が舞台で、探偵役が異国人という設定は翔田寛『消えた山高帽子』とそっくり同じである。ただし、探偵役のベルツだけでなく次から次へと実在の異国人を登場させて作品をにぎやかしたり、また、各短編とも時代背景を活かした事件内容・動機設定も大胆で、けれん味ではこちらが上か。表題作はいうまでもなくクリスティのもじり。そして他の収録短編も同様の趣向が用いられている。この手のギャグめいたお遊びは作者の好んで用いるもので、ともすると悪乗りが過ぎ、作品そのものをチープにしてしまうのだが、本書においては基本的には単なる語呂合わせ程度であり、作品の雰囲気をぶち壊すほどのものではない。総じて、気軽に読める歴史ミステリといえよう。