千澤のり子『マーダーゲーム』

マーダーゲーム (講談社ノベルス)

マーダーゲーム (講談社ノベルス)

 2009年7月購入。1ヶ月の放置。「汝は人狼なりや?」をアレンジしたゲームで遊び始めた小学生たち。「マーダーゲーム」と名づけられたそのゲームの内容は、自分たちの苦手なもの・嫌いなものを「スケープゴート」として用意し隠しておき、犯人に指定された人物がそれを発見し処分していくもので、子どもたちは自分の苦手なものを擬似的にではあるが消してもらうことができる。そしてこの犯人を当てることがゲームの主眼である。当初はゲームを楽しんでいた子どもたちだが、あるときから事態が豹変する。スケープゴートとして提示されたものはウサギ形の携帯ストラップであったのだが、本物のウサギが殺されてしまう。以後、犯人役と思われる人物の行動がエスカレートしていくのだった。
 舞台を小学校、登場人物を小学生としたのは、「マーダーゲーム」を行いやすい環境を用意するという必然性があったからであろう。そしてその舞台設定が次なる必然性を呼ぶ。すなわち、登場人物たちの性格や生活環境を用意しなければいけない、ということだ。「マーダーゲーム」に参加する子どもたちはさまざまな問題を抱えている。転入したばかりでクラスになじめないとか、クラスメイトにコンプレックスを感じたり、あるいは両親との不和といった具合に。このあたりを掘り下げても面白い作品になったであろうが、作者はあくまで舞台背景に据えるにとどめ、「マーダーゲーム」における犯人あてを中心に話を進めていく。ミステリ作家としては潔いことであり、また、そういった立ち位置であっても子どもたちとその環境の書き分けはそれなりにされており、平板な印象では決してない。ただし、作中で登場人物たちも指摘していることだが、探偵役となった少年が子どもらしさを欠いた人物となっているのはやや不自然であるといえる。設定上、探偵役を子どもたちに求めざるを得ないのは仕方がないのだが、ここは設定が枷となってしまった。また、「マーダーゲーム」の説明が「汝は人狼なりや?」を知らない読者にはわかりにくいことや、コロコロ変わる視点等、小説作法上もっと改善を願いたい箇所はあるのだが、ソロデビュー作としてはまずまず。設定の妙とそれを作品化する心意気を買いたい。