北山猛邦『少年検閲官』

少年検閲官 (ミステリ・フロンティア)

少年検閲官 (ミステリ・フロンティア)

 2007年1月購入。2年半の放置。本書最大の特徴は「書物の所有を徹底的に禁じられた世界」を舞台としているところにある。作者はこの前提条件を「書物がないからミステリが読まれることもない」「したがって、ミステリ作品に登場するような殺人事件という概念は存在しない」という方向へと発展させていく。首無し死体が見つかれば、それは殺人事件ではなく、何らかの不可思議な存在によって成し遂げられたものとされる。しかも作中では、その存在=犯人は「探偵」と呼ばれている!
 この奇妙な設定によって生じたねじれや倒錯現象は非常に印象的だ。探偵という概念は犯人という意味で用いられ、現実→事件→小説というごく一般的なメタレベルの概念はそのまま転倒している。この現象のみ突き詰めていけば、結構な実験的ミステリ作品が出来上がるであろうが、作者はあくまでこれらを舞台背景として設定するにとどめている。すなわち、設定こそ奇をてらっているものの、あくまで謎解きを主目的とした本格のガチンコミステリとして読者に提示しているのだ。そしてその舞台背景下で起きた事件ならではのトリックは非常に魅力的である。かなりの力作だ。