佐藤賢一『カポネ』上下

カポネ 上 (角川文庫)

カポネ 上 (角川文庫)

カポネ 下 (角川文庫)

カポネ 下 (角川文庫)

 上下まとめて。ともに2009年1月購入。半年の放置。二分冊のうち上巻がアル・カポネの出世譚となる第一部、下巻はマフィアの帝王となったカポネを捕らえんとする<アンタッチャブル>を率いるエリオット・ネスの奮闘をそれぞれ描いている。佐藤賢一作品といえば中世ヨーロッパを舞台とした好漢たちによる歴史絵巻、という印象が強い。しかし本書は20世紀初頭のアメリカでのピカレスク・ロマンということで同じ歴史ものと言えども毛色はかなり異なる。なによりそれまでの作品で見られた「惚れた女のために全力を尽くす男の生き様」という胸をすく物語が本書には見られない。アル・カポネもライバル(とはいいがたい人物像では描かれているのだが)のエリオット・ネスもその生き様は傭兵ピエールやシラノ・ド・ベルジュラックとは程遠い。それは本書が悪漢小説の体裁を成している当面もあるが、なによりも騎士道精神が現役として存在する時代を舞台としてないことに由来するであろう。かように佐藤作品としては手応えの異質であるが、カポネと彼の生きた時代を照らし出した良作であることは間違いない。