レイモンド・チャンドラー『さよなら、愛しい人』

さよなら、愛しい人

さよなら、愛しい人

 2009年4月購入。2ヶ月の放置。フィリップ・マーロウはムース・マロイという出所したての黒人と酒場で知り合った。マロイは別れた恋人を探しており、この酒場は以前に恋人が働いていたところらしい。ところがそこには恋人はおらず、脳筋全開のマロイは激情にかられ酒場のオーナーを殺し、逃走する。殺人事件に巻き込まれた形のマーロウは独自に調査を開始、マロイの元恋人・ヴェルマを探し出そうとする。
 事件に巻き込まれたり、行方不明の女を捜したりと、ハードボイルドの王道的展開で始まり、さらには別口の依頼が舞い込み、そちらのトラブルにも巻き込まれ、やがてこの二つの事件が交錯していく。マーロウの気障な台詞とタフガイぶりや物語のキーワードとなる「愛しい人」の意味するところなど、キャラクター的にもストーリー的にも読み応え抜群。いまや古典的名作のひとつといえるが、春樹訳で登場ということで未読であれば手に取るいい機会になるでしょう。
 ひとつ残念なのはせっかく村上春樹を担ぎ上げて始まった新装版のチャンドラー作品第二段であるのに、タイトルと装丁に統一感がないことだ。1作目が『長いお別れ』→『ロング・グッドバイ』と変えてきたなら本書も『フェアウェル・マイレディー』でよいように思われる。だが、これは訳者のセンスの問題だから措くとして、装丁がまるっきりバラバラなのはいただけない。本書には1作目のアメリカン・ポップな雰囲気は微塵もない。どちらがよい悪いではなく、せっかくの新訳、しかも後続作品も出そうだというのにビブリオマニア的には統一性がないのはどうにもすわりが悪いです。