柄刀一『殺人現場はその手の中に』

 2005年2月購入。4年4ヶ月の放置。IQ180の天才・天地龍之介を主人公としたシリーズ第6弾。シリーズ当初は柄刀作品としてはキャラクター依存度がそこそこあったのだが、本質的にはトリックやロジックといった本格ミステリ的要素に対する比重が非常に高い作家ゆえ、キャラクターそのもので作品を盛り上げようといった気遣いは見えない。したがって、シリーズが進むにつれて変化していく主人公とその周辺の身辺事情はさほど印象に残らず淡い色合いをしている。
 その代わり、肝心のミステリ要素――すなわち、魅力的な謎とその解明に関しては安心のクオリティだ。ガラスに浮き上がった「死」の文字と、盗難事件の容疑者の事故死を絡めた第1章「瞳の中の、死の予告」。一風変わったアルファベットパズルが導き出す殺人犯のアリバイ崩しの第2章「アリバイの中のアルファベット」。高級なグラス製品が衆人環視の中で消失した第3章「死角の中のクリスタル」。伝統的な神事を録音したテープに残された驚愕の真実を描いた第4章「溝の中の遠い殺意」。そして第5章、殺された被害者が本に残した不自然な血痕の秘密「ページの中の殺人現場」。いずれの事件にも芯となるトリックが用意されており、濃密かつ堅実な連作短編ミステリとして仕上がっている。また、本そのものにも遊び心ある仕掛けが用意されているのだが、あくまで遊び心であってそれほど効果をあげてはいないように思える。