柳広司『虎と月』

虎と月 (ミステリーYA!)

虎と月 (ミステリーYA!)

 2009年2月購入。4ヶ月の放置。本書は中島敦山月記』の後日譚という形式をとっている。隴西の李徴は科挙試験に合格したものの、その職を捨ててしまう。家族を養うために地方官吏の職に就くが、あるとき旅に出る。そしてその旅のさなかに行方をたってしまう。残された母子のもとにやがて知らせが届く。いわく、李徴は虎になってしまった、と。自分も父と同じように虎になってしまうのでは、という不安を抱いた李徴の息子は父の消息を探るべく旅に出るのだった。
 人間が虎へ変身した、という幻想譚である元ネタをミステリ的に解体しましょう、という野心的な作品。謎解きそのものは想像の範囲内におさまるもので、さほどの驚きはない。だが、元ネタに対するリスペクト、そしてそのさらに源流にある中国文学、ことに漢詩に対する作者の愛着を十二分に感じさせてくれる一作だ。父子及び母子関係を主軸とした少年の成長物語としても上手くまとめており、なかなかの良作といえる。