近藤史恵『猿若町捕物帳 にわか大根』

にわか大根 猿若町捕物帳

にわか大根 猿若町捕物帳

 2006年3月購入。3年2ヶ月の放置。男前だが堅物の同心・玉島千蔭が探偵役の時代ミステリ。吉原の遊女が遊女が三人連続で死んだ。その三人の死をつなぐミッシングリンクに「雀」というキーワードが浮かんでくる「吉原雀」。人気の歌舞伎女形が大阪帰りの公演から突然下手な芝居をするようになる。さらいその女形の幼い一人息子が不審死を遂げる表題作「にわか大根」。誰からも愛される善良すぎる男が殺される。船芝居の役者だった男殺し、その重要容疑者に彼の相棒を勤めた人物が浮かび上がってきたのだが……「片蔭」。
 以上三作を収録。事件の舞台となるのが遊女や歌舞伎役者の世界で、これまで現代ものにおいても歌舞伎ミステリを多く手がけたり、あるいは女性心理を扱った作品も多数あるという作者だけあって、作品世界にふさわしい舞台や人物を非常にうまく描いている。
 また、本書においては千蔭の結婚問題という三作品をつなぐエピソードも用意されており、ストーリーに起伏を施している。遊女の梅が枝や女形の巴之丞といった千蔭の理解者や、彼の父親でもある粋な老人と若い妻、部下の八十吉、さらにはライバルである同心といった周囲を彩る人物も多彩でシリーズものとしても楽しめる一品。