菊地秀行『トレジャー・キャッスル』

トレジャー・キャッスル (ミステリーランド)

トレジャー・キャッスル (ミステリーランド)

 2009年3月購入。2ヶ月の放置。日々喧嘩に明け暮れる中学生とその同級生の文学少年、イケメン女たらし、金持ち美少女の四人による宝探しの話。彼らの暮らす街にまつわるマジキチ幼君主の伝説をもとに城址探索を行い、そのさなかにやはり宝を狙っているとおぼしき連中の襲撃を受けたり、あるいは探検先で遭遇した怪物やマジキチ君主の残したからくりの存在――といった具合に秘宝探索の王道っぽい展開でストーリーは進んでいく。次から次へと起きる事件やバトル、そしてそれに絡む魅力的なキャラクターたちによるやり取り等、テンポは抜群によく、読者を飽きさせない。ただし、少年少女ものという縛りゆえか、本来の持ち味であるエロさグロさはかなり控えめ。また、喫茶店のデブマスターの苗字が外谷、というネタはファンなら思わずニヤリとしてしまうところだ。以下は蛇足とて、あとがきに関して。本編にまったく関係ないのでたたみます。
 ミステリーランドのシリーズには「わたしが子どもだったころ」と題されたあとがきがつきもので、本書にも当然そのあとがきが設けられている。そこで語られる極めてネガティブな港町は、千葉県銚子市のことだ。関東の東端という地にあって文化的には絶望的なほど得るものが少ないところであるのは菊地のまさに語るとおりで、そして今現在ではさらに絶望的なこととなっている。数少ない娯楽として菊地は映画をあげている。当時はポルノ専門も含めて映画館が数館あったからだ。今ではすべてつぶれて一館すらない。市内唯一の百貨店はつぶれ、市立病院は閉鎖し、莫大な借金を抱え、自転車よりも遅い鉄道も赤字で、それを解消するために煎餅を売っている……田舎暮らしについて、「これ以外の道(=小説家になること)を辿れば、何をやっても上手くいかず、挙句の果ては犯罪に手を染めかねなかったろうと思う」という、菊地のあとがきはあまりにネガティブで、故郷に対してあんまりな言い方に思えるかもしれない。だが、こと文化面に関しては残念ながら菊地の言うとおりである。本当に残念ながら。