東野圭吾『ガリレオの苦悩』

ガリレオの苦悩

ガリレオの苦悩

 2008年10月購入。7ヶ月の放置。収録された短編のほとんどがガリレオ=湯川の身近で生じた事件を扱っている。かつての恩師との再会時に起きた殺人事件をめぐる「操縦る」、友人からの依頼で密室殺人の調査に乗り出す「密室る」、一方的に湯川を恨む人間による湯川に対する挑戦「攪乱す」……
 また、そうでないものあるが、「落下る」では女性刑事・内海薫と湯川の初顔合わせがあったり、あるいは『容疑者Xの献身』事件の影響からか警察に協力することを拒むようになっていたりと、これまでにない「シリーズキャラクター」としての湯川の姿が各所に描かれている。
 作者がドラマ化によって新たに得られた「ガリレオ」ファンを念頭に置いた上で執筆したことは疑いない。同時刊行の長編『聖女の救済』の一シーンで薫がドラマの湯川役である福山雅治の歌を聞く箇所が登場し、その場面が作者によるファンサービスととらえられたようだが、ファンサービスという点では湯川というキャラクターを掘り下げ、それまで物理トリックをメインにした事件の解決役という役割でしかなかった人物にスポットを当てるという作風に変化させてきたことのほうが、より大きなファンサービスであろう。