恩田陸『禁じられた楽園』

禁じられた楽園 (徳間文庫)

禁じられた楽園 (徳間文庫)

 2007年3月購入。2年1ヶ月の放置。カリスマ青年・烏山響一をめぐる物語。伯父は世界的な有名な建築家で、自身も若くして才能を発揮した天才美術家で、イタリアの巨匠が手がけた映画の美術を担当したりしている。そんな彼になぜか気に入られた二人の男女。二人は響一に魅入られてしまい、彼に薦められるがまま熊野の山奥に作られた巨大美術館を訪れるのだった。
 恩田陸の作品には独得の一口でとらえにくい雰囲気とそれに付随する吸引力が存在する。本書に登場する烏山響一はそのような魅力を具現化したような人物だ。ミステリアスで危険な匂いが付きまとっているこの人物の取る行動、その目的は何なのか。この一存在でもって読者の興味をひきつけておき、ストーリーを展開していく。幻想的空気、そして結末に向かいつつも収束しきれないストーリー。紛れもなく恩田ワールドであるが、本書は後半ヘ向けてホラーの色合いが特に濃い。そのホラー要素は印象的。長い割りにさくさく読めるので飽満感を抱くこともない。