松尾由美『雨恋』

雨恋 (新潮文庫)

雨恋 (新潮文庫)

 2007年8月購入。1年8ヶ月の放置。引越し先を探していた沼野渉は、長期出張で渡米することになった叔母の家に住むことに。ところがその家には幽霊が住み着いていた。雨の日だけ登場するものの姿が見えず、声しか聞こえないその幽霊は小田切千波という女性で、どうやら彼女は何者かに殺されたらしい。犯人探しに乗り出した渉は少しずつ千波が死んだ時の状況を調べ、その事実を彼女に伝える。すると、迷いが晴れたのか、足元がうっすらと見えるようになった……
 読者は事件の解明、そして小田切千波という女性はどんな容姿をしているのか、二つの興味を抱くことであろう。その点、殺人事件の調査を進めていくにしたがって、まるでご褒美のように気になる幽霊女性の姿が少しずつ見えるようになる、というストーリー展開は二つの興味を同時進行で解き明かしていくことになっており。非常に合理的な設定であるといえる。雨の日にしか現れない女性に対する恋=雨恋と、その女性に会うために雨が降ることを祈る=雨乞のダブルミーニングになっているタイトルも巧い。恋愛ミステリの良作。