連城三紀彦『造花の蜜』

造花の蜜

造花の蜜

 2008年12月購入。3ヶ月の放置。本格ミステリ界随一の技巧派の作者が繰り出す誘拐ミステリ。文章の美しさもさることながら、章ごとに巻き起こるするどんでん返しが最大の読みどころである。冒頭で描かれるのはある母子家庭が巻き込まれた誘拐事件。この事件に対して、それぞれの登場人物たちの心の裏に潜む思惑、そしてそれに起因する行動によって事件の様相はがらりと変わっていく。犯人と被害者、誘拐されたものと誘拐したもの等々……読者に提示された登場人物たちの立ち位置や物語上の役割といったものが章を追うごとにがらりと変わっていく。しかも、いかにも創作物めいた形としてではなく、あくまで自然に。息を飲む巧さだ。ただ一点残念なのは技巧に走りすぎたあまり、最後の最後のどんでん返しである終章が蛇足めいた形になってしまっており、物語構成上のバランスを欠いてしまっていること。もっとも、通常であれば、その程度の瑕疵は大きな欠点になりえないものだが、それまで構成があまりに見事すぎるため、かえってその些少な傷すらも目だって見える、という程度のものだが。