米澤穂信『儚い羊たちの祝宴』

儚い羊たちの祝宴

儚い羊たちの祝宴

 2008年11月購入。3ヶ月の放置。勘当された兄が引き起こした凶行、そしてその後に起きた祖母の死の真相「身内に不幸がありまして」。離れに幽閉された男に仕えることになった女。やがて男は死んでしまうのだが……「北の館の罪人」。別荘の管理中に怪我した男を見つけて介抱する。男を探しに仲間の救助隊がやって来るのだが男の存在をひた隠す。彼女の意図とは「山荘秘聞」。女の身で次期当主候補でありながら、弟が生まれたがために当主候補の座を追われた女。幼いころから一緒に育ち友人とさえ思っていた使用人とも離れ離れになり、時折顔を合わせても以前のような態度は見られない。彼女との間にあったのは主従の関係のみだったのか「玉野五十鈴の誉れ」。宴の料理を専門に作る料理人を雇った男はアミルスタン羊を使った料理を要求する「儚い羊たちの晩餐」。
 以上五編、上流階級に属する者たち、そしてその使用人の間で起きた出来事・事件、作中に「バベルの会」と呼ばれる読書サークルが登場する、といった軽い縛りを用いている。過去作品に同種の背景をもった登場人物を好んで用いてきた作者であるだけに、田舎の旧家・名家の雰囲気、お嬢様とその使用人たちの描写は堂に入っており秀逸だ。作者のファンであれば「須和名嬢も学生時代はバベルの会に在籍していたのかも」とか「俺の嫁えるタソも進学したらバベルの会にry」などと妄想することも可能だ。
 なお、帯の惹句では「最後の一撃」ものであることを強調し、売りにしているようだが、この惹句を鵜呑みにすると肩透かしを食らうことになる。とはいえオチの捻りはバッチリ効いているので普通に読めば十分に楽しめるであろう。