桜庭一樹『ファミリーポートレイト』

ファミリーポートレイト

ファミリーポートレイト

 2008年11月購入。3ヶ月の放置。桜庭一樹作品の主要テーマが「少女」であることは、衆目の一致するところであろう。そこから拡大して「家族」というくくりで眺めてみると、「少女」は「父親」との関係でもって語られることが多いように思われる。出世作砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』や初の非ライトノベルである『少女には向かない職業』などが代表的作品で、父―娘という構図を用いて「少女」を描き出している。それはすなわち大人―子供の関係性でもあり、かつ、男女の対立の構図でもあり、テーマを語らう上では非常に便利である。それに比して女性同士、すなわち母―娘の関係性はこれまでメインで取り上げていない。『少女七竃と七人のかわいそうな大人』では母親の存在が重要視されながらも、肝心の母親自身は物語の中心に置かれることはない。『赤朽葉家の伝説』は母系家族を扱っているものの、作者には母―娘という関係性を描くという意図はないであろう。
 本書ではそのような作者のテーマ的欠落を埋めんとするかのように、母と娘の関係がメインに据えられている。第一部では少女コマコと母マコのこと、まさに「少女」というものが「母親」との関係性でもって述べられていく。残酷で悲しく、しかしどこか美しいその物語は母親の退場でもって幕を閉じる。続く第二部はコマコが少女から大人へと成長していく話だ。年を重ね、年齢的に第一部の母親のそれに追いつき追い越し、やがては自分が「母」になる――それは成長とともに自身の少女性の喪失であり、母親というくびきからの開放でもある。ここまで書ききって、作者による「少女」と「母親」の物語は完成するのだ。出来そのものも期待にそぐわぬすばらしいもので、作者にとっても読者にとっても非常に意義深い一冊だ。