大倉崇裕『やさしい死神』

やさしい死神 (創元クライム・クラブ)

やさしい死神 (創元クライム・クラブ)

 2005年1月購入。3年10ヶ月の放置。シリーズ第三弾(短編集は二冊目)、ということでこれまでは落語界とは無縁であった間宮緑の周辺の出来事も扱っていたのに対し、本書では短編五作すべてが落語界及び周辺人物に絡んだ話で、まさに落語ミステリと呼ぶにふさわしい短編集となっている。もっとも、それまでの非落語界の話であっても作中で生じた事件を任意の落語の噺に絡めていたので落語ミステリではあるのだが、純度がより濃厚なものになったのは間違いない。逆にそれゆえ、事件そのものが一門の継承問題が絡むことが多くなったりと、各作品の切り口が似通ってきてもいる。しかし各作品に主題と通ずる噺をそれぞれ絡めることで、色合いを変えてきているのでマンネリ感はない。また、変にマニアックな方向に進んでいるわけでもないので、どの短編も落語素人でもすんなり読める仕上がりになっており、特殊ジャンルを扱ったミステリとはいえ、間口は非常に広いといえる。