仁木英之『薄妃の恋 僕僕先生』

薄妃の恋―僕僕先生

薄妃の恋―僕僕先生

 2008年9月購入。2ヶ月の放置。クールな美少女仙人僕僕先生と彼女に恋焦がれる弟子の王弁のコンビによる、唐代中国道中記。前作同様、作中で焦点が当てられるのは仙人と人間という二人の間に生じた恋愛感情である。しかし前作がこの二人そのものにスポットを当てていたのに対し、今回は二人以外の人と人外の恋を取り上げ、それらの成り行きを鏡として照射している。
 「飄飄薄妃」では恋する男に執着するあまり、やがては男の生命をも脅かしてしまう薄妃という人外女性が取り上げられ、「黒髪黒卵」では女神の髪から生じた化身による人間の夫に対する愛情が語られる。
 この人と人外の関係はただ恋愛関係にとどまらず、「陽児雷児」では少年による友情物語として語られ、「奪心之歌」では人外の示す芸術的な歌声に心奪われる人間の姿が描かれる。
 これらは心が通じ合っていながらも容易に結ばれることはないであろう仙人・僕僕先生と人間・王弁の心中になんらかの思いを抱かせるに違いない出来事であるはずだ。しかしそれに対する僕僕先生の心の内は決して語られることはないし、王弁にいたってはあっけらかんと師匠を慕っているのみだ。
 テーマに対する踏み込みが浅いのは物足りないが、シリーズを続けていく上で致し方ないものであろう。その点では不満だが、この二人及び仲間たちで繰り広げられる道中記は楽しく、まだまだ続きを読みたいと思わせるだけの魅力がある。