チャールズ・ボーモント『夜の旅その他の旅』

夜の旅その他の旅 (異色作家短篇集)

夜の旅その他の旅 (異色作家短篇集)

 2006年7月購入。2年4ヶ月の放置。一読して目につくのはレミング的な人物の登場する作品が多い、ということだ。すなわち、無残に殺されることがわかりきっているのに闘牛士デビューを決めた男やハナから気に入らなかった新居で暮らす夫、出世のために嫌な上司に付き合いながらも感情優先させてしまうサラリーマン、あるいはすすんで種明かしをしてしまう奇術師……といったように、自殺していくレミングのごとく自ら不幸・不利益を生ずる方向へ足を向けていく者たちといった具合だ。作者の視点がこのような不可思議な行動をとる人間心理に強くひきつけられていたことは明らかで、そしてそれらに対する描写にくどさはなくそれでいて鋭い。演出面か眺めても、これらの人物がただ不幸に向かうという単純なものにとどまっておらず、それぞれの状況や周辺人物を利用して多彩な物語を作り上げており、マンネリな印象はまったくない。好短編集だ。