荻原規子『これは王国のかぎ』
- 作者: 荻原規子,佐竹美保
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2007/02/01
- メディア: 文庫
- 購入: 2人 クリック: 13回
- この商品を含むブログ (35件) を見る
ヒロミの訪れたところはアラビアンナイト風の世界で、そこでは彼女は平々凡々たる一少女ではなく、強大な力を有した魔人として存在していた。そして二人の少年に出会い、王家争い絡みの冒険に巻き込まれていく。時に魔人としての力ゆえに頼られ、時に敬われ、その世界での存在意義を見出していくヒロミ。次第に辛いことのあった現実世界よりも、魔人として暮らすその世界のほうに愛着を抱いていく。
しかしそれでも結局彼女は現実へと立ち返ることになる。現実から目を背け異世界にしがみついている間でも、彼女はその世界の衣装をまとわず、本来いるべき世界の制服を身につけたままでいる。あくまで彼女自身の意思で。この種の物語における異世界は、あくまで現実世界を見つめるための鏡として機能するものである。この衣装描写はその鏡を機能させるための少女の心中の表れなのだが、現実から逃げながらも、最後の最後、心の奥では現実を捨てきれずこだわり続ける少女の姿の描写として、非常に秀逸であるといえる。