田中哲弥『大久保町の決闘』

大久保町の決闘―COLLECTOR’S EDITION (ハヤカワ文庫JA)

大久保町の決闘―COLLECTOR’S EDITION (ハヤカワ文庫JA)

 2007年3月購入。1年半の放置。高校生の笠置光則は夏休みを利用して母の実家である兵庫県明石市大久保町を訪れたのだが、そこはなぜか現代とはかけ離れた、ガンマンの暮らす西部劇風の町であった。光則は到着早々、町で横暴な振る舞いを繰り返す村安一家の巻き起こす騒動に巻き込まれていく。さらには彼自身が伝説のガンマンの息子であることが判明し、住民に救世主扱いされてしまうのだった……
 舞台設定にそれらしい理屈や背景は存在せず、あくまで「大久保町はガンマンの町なのだ!」という事実を前提条件として作者は読者にたたきつける。また、主人公は一介の高校生に過ぎず、銃など撃ったこともないのに救世主として祭り上げられ、恐ろしいほどの偶然の働きかけで住民の期待にたがわぬ結果を残して見せたりする。このような前提条件を無理やりすぎと解釈したり、都合よすぎる偶然の連鎖に鼻白んでしまうような読み手にはお勧めできないが、この強引でムチャなノリを笑い飛ばせる読者にのみそっと差し出して見せたくなる作品だ。