鈴木陽一編著『金庸は語る 中国武侠小説の魅力』

 金庸が2001年に来日した際のインタビューのまとめに、簡単なプロフィールをつけたもの。金庸入門に最適ではある。しかしボリューム的に仕方のないことだが、作品をより深く読み解くためのサブテキストと考えるとかなり物足りない。個人的に気になったのが、ふたつある。まずは金庸が注目している若手作家の詳細で、金庸と古竜、梁羽生以外はまったくなじみのない本場の武侠作家、それも現役バリバリの人たちの作品には、ものすごく興味を惹かれる。できれば日本でも出版していただきたい。いまひとつは本書の内容とはまったく関係ないことである。インタビュー中で触れられている、日中の西洋小説の浸透事情の違いだ。ホームズや大デュマが輸入されたのは日中同時期であるのに、日本ではホームズ的な推理小説が発達し、中国ではまったく流行らない。代わりに中国で大デュマのような、歴史に題材をとった小説=武侠小説が発展した。これについて金庸はこの違いを「中国は証拠がさほど重要視されなかったという歴史事情があるため、推理小説はもてはやされなかった」という説を冗談交じりに取り上げている。