翔田寛『消えた山高帽子 チャールズ・ワーグマンの事件簿』

 2004年6月購入。4年2ヶ月の放置。文明開化直後の明治初頭、横浜居留地。新聞記者として当地に赴任したワーグマンが事件を解決していく歴史短編ミステリ。
 扱われる謎・事件は幽霊や切腹といった旧来の日本文化が絡んでくるものが多く、また事件に巻き込まれる人物には西洋人も結構登場する。舞台とした時代背景を念頭においた設定であり、そしてそれらが十分に活かされたストーリーに仕上がっている。
 また、当時代を扱うにおいて注目されるであろう問題――近世的江戸文化と近代的西洋文化の比較がミステリレベルにおいてあからさまに強調されてない点は非常に好印象だ。本書の視点人物は西洋人であるが、旧来の日本文化をその視点人物にとって異色なものとして扱い、そのことによって生じる発想の違いを梃子に事件の真相を導き出す、あるいは西洋人の近代的知識が事件解決の糸口になる、といったような安易な手法を用いることがないので、謎解きシーンが作品内で浮き上がることがないのだ。作者の筆致は時代の空気を描くことに気遣っており、したがってミステリに必要な演出がその空気を損なうことのないように溶け込んでいる。その意味で時代ミステリの佳品であるといえる。