栗本薫『グイン・サーガ122 豹頭王の苦悩』

豹頭王の苦悩―グイン・サーガ〈122〉 (ハヤカワ文庫JA)

豹頭王の苦悩―グイン・サーガ〈122〉 (ハヤカワ文庫JA)

 本シリーズの主人公・グインは武勇に優れたいていのことでは動じない冷静さをもっており、豹頭という異形であるにもかかわらず皆に慕われ、なんの縁故も用いないのに一国の王にまで登りつめた。また、登場以来記憶を失っており、自分自身の存在に一抹の不安を抱いているものの、それにくじけてしまうほど弱い精神力の持ち主ではない。ひとことで言えば、チートである。
 そのグインが唯一苦手としているのが妻のシルヴィアに関する問題だ。生来わがままで問題あるふるまいの多かったシルヴィアだが、不幸な事件に巻き込まれて以来その行動はさらに悪化する。グインと結婚後は一応の落ち着きを見せるものの、そのグインがしばらく国を空けている間に取り返しのつかない問題を起こしてしまう。
 チートな存在であるグインにも弱点を設けて単純な無敵キャラではない、陰影のある一人間(?)であることを示すためのエピソードであり、シルヴィアはそのために用意された存在でもある。しかし、さじ加減を誤ったのか、今巻において両者の関係は破綻を迎える。それも、これまでのグインの葛藤をあっさりと切り捨てた上で。
 エピソードそれ自体は非常に重たく、考えさせられるものではあるがタイミングや処理の仕方などがどうにも半端な感がある。もっとも、だらだら進められるよりは全然よろしいのだが。