舞城王太郎『ディスコ探偵水曜日』上下

ディスコ探偵水曜日〈上〉

ディスコ探偵水曜日〈上〉

ディスコ探偵水曜日〈下〉

ディスコ探偵水曜日〈下〉

 上下まとめて。2008年7月購入。1ヶ月の放置。主人公はディスコ・ウェンズデイという風変わりな姓名の探偵で、専門は迷子探し。独身男性であるが、過去に手がけた事件の成り行きで六歳の少女・梢と暮らしている。その梢がある時17歳の姿に変わってしまい、そしてそれを契機にディスコの周囲で不思議な現象が続々と起こる。パンダラヴァーと呼ばれる殺人鬼に襲われた少女の魂が梢の肉体に迷い込んだり、水星Cという名の男に絡まれたり、他の名探偵とともに作家殺しの真相を推理したりと、ストーリーは猛スピードで思わぬ方向へと読者を引きずっていく。作家殺しの真相を探るパートでは推理→検証というミステリのお約束的な過程が次々に使い捨てられていくさまは圧巻で、そのテンポやスピード感はいかにも舞城らしい。
 やがて物語は時空の壁すら越えていき、その色合いをミステリからSFへと変じていく。そこで語られる時空論は一応理屈立てされているのだが、結局大切なのは意志の強さだ。作中で常に語られる梢への思い、「子供を救う」という決意――舞城作品では恋人への愛情や仲間との友情、などといったとてつもなくシンプルな感情の大切さが強調されることが多いが、本書でもそのシンプルな感情こそが重要な意味を持ってくる。
 単行本では舞城久々の作品であり、いやがうえにも期待の高まったのだが、作者らしさが発揮され期待に十二分に答えてくれた一冊である。おなかいっぱいです。