光原百合『時計を忘れて森へいこう』
- 作者: 光原百合
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2006/06/27
- メディア: 文庫
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この反転はミステリ的にみれば反転のこうずが鮮やかに映えるし、同時に語り手の「若さ」というものをも鮮やかに映し出しているといえる。自身が心優しい少女で傷つくことあるいは傷つけることを忌避する気質である。それゆえにそういった恐れのある周囲の出来事には敏感になりすぎる。結果として視野が狭くなり、すべてを悪い方向へと考えて悩む。しかし余裕を持ってさらに広い視野を持つことができれば違う真実が見えてくる。それができるのが翠よりも大人である護であり、その護の視野の広さとそこから生じる優しさに翠は惹かれる。本書はミステリであると同時に少女と大人を隔てる心の余裕を描く小説であるといえる。これらのイベントを経て翠が大人へと成長を遂げる要素が見えるのであれば、成長小説としての読みどころもあっただろう。残念ながら、それらの要素は不足している。