貴志祐介『十三番目の人格 ISORA』

 阪神大震災の直後、ボランティアで被災者の心のケアをしていた賀茂由香里は森谷千尋という少女と出会う。人の強い感情を読み取ることのできるエンパス能力の持ち主でもある由香里は、その少女が多重人格者であることに気づく。千尋と仲の人格の大半とは次第にうちとけていく由香里であったが、そして中の人格のひとり、ISORAと呼ばれる存在によって危機に陥ることになるのだった……
 多重人格者の物語であるのだが、千尋はあくまで由香里の視点によって語られるにとどまり、多重人格ものとはいえ彼女自身の内面での苦悩を掘り下げていくというようなタイプの物語ではない。代わりにもうひとつ別の要素として臨死体験をオカルト的に取り入れ、多重人格ネタと上手く融合させている。
 ストーリーはこの二つの要素を両輪として進んでいくのだが、その推進力・吸引力はすばらしく、読み手に対するリーダビリティの高さはかなりのものといえよう。ページ数のわりにさくさく読めるが、逆にもう少し重厚感もがほしい気もする。