芦辺拓『殺しはエレキテル 曇斎先生事件帳』

殺しはエレキテル (カッパ・ノベルス)

殺しはエレキテル (カッパ・ノベルス)

 2003年12月購入。4年半の放置。蘭学者・橋本宗吉、通称曇斎先生を探偵役とした捕物帳。短編六編を収録。それぞれの事件には江戸時代当事の日本にとっては馴染みのない西洋科学を用いたトリックが絡んでくる。曇斎先生は蘭学者であるため、これらの知識に精通しており、応用力もあるのでトリックを解明し、事件を解決へと導くことができるというわけだ。短編一つ一つに蘭学がらみの仕掛けがきっちりと埋め込まれており、芯の通った短編、短編集として仕上がっているといえる。
 また、江戸文化熟覧期の大阪を舞台としており、そこにおけるたくましく生きる町人の姿に作者は好感を抱いているようで、それに対する頭でっかちの官僚=武士との対立の構図を活写している。だが、町人に肩入れするためか、探偵のライバルとなる奉行所の役人がひどく嫌な人物・無能な人物として描かれているのがあまりにあからさますぎる。これは作品にとってマイナス要素であろう。