ヴォンダ・N・マッキンタイア『太陽の王と月の妖獣』上下

太陽の王と月の妖獣〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

太陽の王と月の妖獣〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

太陽の王と月の妖獣〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

太陽の王と月の妖獣〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

 上下巻共に2000年1月購入。8年5ヶ月の放置。ルイ14世の統治する17世紀フランスを舞台としたファンタジー。絶対的な権力を有する「太陽王ルイ14世も年老い、死の影が忍び寄ることを感じざるをえない。老衰死を免れたい王はドラクロワ神父を遠海に派遣し、伝説の海の妖獣捕獲を命ずる。幼獣の肉を食することによって不老不死の生命を得んとするためだ。捕獲に成功したドラクロワ神父は幼獣を王に献上する。はじめて見る奇怪な生物の生態の研究や世話はドラクロワ神父とその妹マリー=ジョゼフに委ねられる。
 単なる猛獣と思われた海の妖獣だが、マリー=ジョゼフはこの生き物に知性が存在していることに気づく。しかし、妖獣は不死の霊薬としてルイ14世の食卓に共ぜられる予定となっていた……
 17世紀フランス宮廷を舞台とした歴史ものとして読めるし、人間と妖獣という異生物間の友情物語と読むことも可。なおかつこの友情の裏からは昨今の捕鯨問題のような「知性ある生命を食料とするために殺害する」ことに対する倫理的問題提起も読み取ることは可能であろう。
 以上の読み方が王道的とするなら、邪道っぽい読み方もできる。それは「妹萌え」小説としての読み方だ。本書の語り手マリー=ジョゼフは海の妖獣を捕らえたドラクロワ神父の妹として登場する。これがなかなかのドジッ子で、妖獣の世話に夢中になってしまい、翌朝、王との謁見がひかえていた兄を起こさねばならなかったのに起こし損ねてしまう。また、華やかな王宮に足を踏み入れた際は周囲空気に呑まれてきょどってしまい、王の登場を妨げてしまったりもする。しかもこの妹、修道院育ちの寝んねであり、性的な知識がまったくないのだ! ホモっ気のある王弟が男の愛人とキスする姿を見てもそもそも男同士のアッーの概念がないので理解できなかったり、妻帯者が愛人をつくって浮気するということも理解できなかったりする。歴史ものが苦手でもキャラクターものが好きな読者には意外と楽しめるのではないだろうか。むろん、ラノベ文体とは程遠いのだが。