米澤穂信『犬はどこだ』

犬はどこだ (ミステリ・フロンティア)

犬はどこだ (ミステリ・フロンティア)

 2005年7月購入。1年11ヶ月の放置。米澤作品における探偵役は能力とモチベーションの間に大きな乖離が生じているのが特徴だ。省エネ主義であったり小市民に徹して目立ちたくないなど、基本的にやる気は低い。そのモチベーションを高めるために、たとえば好奇心旺盛なお嬢様に「わたし、気になります」などとけしかけられたり、従来の好奇心が小市民主義を覆さざるを得ないほど盛り上がってしまったり、あるいは推理力をフル回転させざるを得ない場所に閉じ込められたりする。
 本書の場合はもっと単純で、日々の糧を得んがために職業としての探偵業にいそしまねばならないのだ。これは他作品の主人公が学生であるのに対し、本書の探偵役が社会人であることに起因する。
 物語は失踪女性の捜索と古文書解読という二つの依頼をこなすことによって進んでいく。一見無関係と思われた二つの捜査が偶然にも関わりを持っていき、最終的な解決ということになるのだが、基本的に仕事としての探偵であるためこの「解決」は事務的で、正義感や人道的配慮とは著しくかけ離れたところにある。かといってこの主人公がビジネスライクに徹した冷たい男というわけではなく、彼に感情移入しにくかったり反感を抱くことはさほどないであろう。このあたりの人物造形のバランスの取り方は非常に上手い。